アジア拠点へ既存SAPシステムのロールアウトを検討する際、プロジェクトに影響を与え得る要素として、地域における法令や商習慣等を考慮する必要があります。

ロールアウトにあたり、下記のように多くの疑問や不明点が心に浮かんでくると思います。

SAPをアジアへロールアウトするにあたり、根本的に知っておかなければいけないことは…?
考慮すべき要因は…?
成功へ最も影響を与える要因は…?

本稿では、アジアへのロールアウトについて考察し、ロールアウトを成功させるための検討事項や潜在的なアプローチについて説明したいと思います。

疑問にお答えしますので、ぜひご一読ください。

SAPをアジアへロールアウトするにあたり、留意すべき基本的な違い

1. 文化の相違

アジアの国々における国民性は、決して同質とはいえないでしょう。 シンガポール人から受け取った「Yes」は、タイ人や日本人から受け取った「Yes」とは全く異なる意味を持ちます。

一般的に、アジア人は欧米諸国と比べて対立的な性格を持つ人は少なく、一般的に平和に、事なきを得たいという願望を持っています。 これにより、質問や討議が少なくなり、その結果、すべてのビジネス要件を迅速に見つけることができなくなる可能性があります。 また、ユーザートレーニング中に問題を引き起こすこともあります。ユーザが「嫌がられたくない」と思った結果、ベンダーに「トレーニングを理解できていない」ことを伝えられないことが原因かもしれません。

また、アジア地域において、時間は相対的です。ミーティングが必ずしも時間に正確に開始されるとは限りません。これは多くの場所で許容できると考えられています。 また、特にドイツの文化とは異なり、内容よりも、経緯の方が重視されています。 ユーザはビジネスを行う前に、まず「取引先と仲良くなる」ことから始めたいと考えるため、ビジネスタイムの外(またはミーティング中でも)でも相手を知るための付き合いをする必要があると、理解する必要があります。

2. 法律上の差異

Lady working on laptop

 

当然ながら、SAP ソリューションをアジアに展開する際に考慮する必要がある規制はすべての国にあります。 多くの国では、特定の文書を現地語(タイなど)で印刷することが要求されています。また、請求書を発行するには、政府承認のシステム(中国の「ゴールデン・タックス・システム」など)を使用しなければなりません。

しかし、多くの場合、ビジネスのなかで決められていく特定の要件は、法的・税制面での要件ではなく、ビジネスをする上での要件であるという状況に直面することがあります。「法的要件」と、「ビジネス・プラクティス」を区別できるようにすることで、ソフトウェアの不必要なカスタマイズを回避し、各国のビジネス・プラクティスを適用させることが可能になります。

SAPロールアウトの際の留意事項

1. 言語

SAP ソリューションを各国において英語で使用するか、あるいは各国で話されている言語でソリューションを提供するか。

どちらの選択肢にも利点と欠点があり、各国のチームの既存のビジネス環境と教育標準、および均一的なSAP 環境整備の必要性を考慮する必要があります。

ケーススタディ

過去にSAP ロールアウトプロジェクトとして、SAP を韓国に導入しました。 アサインされたのは英語/ドイツ語を話すコンサルタントと現地韓国人のSAP エキスパートが混在したチームメンバーでした。 SAPソリューションは英語で実装され、結果として、プロジェクト終了時には韓国のチームメンバーの英語スキルが大幅に向上しました。 英語と韓国語の両方でシステムを運用することができた。 しかし、このアプローチでは現地のチームメンバーを既存のビジネス・プロセスの変更および英語への対応をリードするために、コンサルタントの大半が常時オンサイトでプロジェクトに参画する必要がありました。

我々の経験では、最良のアプローチとして、英語で運用されているプロジェクトを発足し、選ばれしキーユーザーは英語でトレーニングを受けている状態を作ることです。 それに続き、英語または現地語の知識をエンドユーザーにトランスファーします。 本内容は、各国で成熟したユーザのチームを構築することへも役立ちます。これはSAP ロールアウトを成功させるための不可欠要素であり、非常に重要なことです。

2. テンプレートアプローチ

SAP ロールアウトを成功させるために、主要な質問の1つとして、どのようなテンプレートアプローチが最適に機能するか?というものがあります。 SAP をアジアにロールアウトしようとしているお客様と話す際、最初のコメントは大体、「既存のテンプレートをアジアにロールアウトするだけで問題ない」です。 テンプレート・ロールアウト・アプローチの細かい点に進む前に、そもそもテンプレートの構成要素について確認していきましょう。

a) アジアへのSAP ロールアウトに、本社と同じクライアントを使用すべきか。

この判断には、いくつか検討すべき項目があります。 同じクライアントを使用した場合、技術的な観点から、アジアの関連会社を本国のビジネス環境と近い形で統合できますが、現地のカスタマイズのオプションは制限されてしまいます。 その一方で、各国に特定のビジネス要件を満たすために多くの自由を与える場合、ドキュメントの管理やグルーピングにおいて、負荷が高くなってしまいます。

上記に加え、長期的なビジネス戦略についても考慮する必要があります。 お客様の会社が、長期的な戦略を立てている伝統的な家族経営の場合、これは良い選択肢かもしれません。 一方で、M&Aの機会があり、アジャイルな経営を運営している場合、同じクライアントを持った子会社が存在すると、その後の関連会社の売却は困難になります。

b) 使用可能なテンプレートはすでにありますか?

SAP を本国(ここでは私の経験のあるドイツ)の主要ファクトリーに実装しているかもしれませんが、既存のソリューションを中国/ マレーシア/ ベトナムの工場にそのまま展開できるでしょうか。 例えば、本国の導入におけるの要件はかなり複雑で、アジアの一部の国に導入するにあたっては、高度すぎるという可能性があります。

多くの先進環境では、ドイツのソリューションは高度な課題に合わせて高度にカスタマイズされています。このようなソリューションは多くが自動化されている可能性がある一方で、その後のアップグレードにはずっと多くの技術習得のための時間と労力を必要とします。 そして、維持コストも高いです。

SAP のベストプラクティスに基づいた「アジア・テンプレート」を構築することを推奨することが多いです。その理由は、アジアの関連会社向けには、大幅にカスタマイズされている(あるいは不必要に複雑になっている)テンプレートは向いていないことにあります。

c) 推奨されるロールアウトシーケンスは何ですか?

複数国の計画をカバーするSAPアジアへのロールアウトは、技術的な観点以外にも、ビジネスへの影響も考慮する必要があります。 最も大きい拠点、あるいは最も要件が複雑な拠点から始めるか。それとも、まずは小規模な拠点へテスト的に導入してみるか。各拠点のロールアウトに取組む前に、情報収集や、確実なプランニングセッションを行うことを推奨します。これにより、プロジェクトが成功する可能性が高まります。

5 SAP のアジアへのロールアウトを成功させるためのヒント

1. シーケンスを計画

 

Map with pins stuck in Asia

各国における、既存オペレーションの確認には時間をかけましょう。さらには、各国拠点の経営陣、キーとなるユーザーとはオペレーションの変更やビジネスの要件という観点で認識を行い、SAP標準よりも高度な機能を必要とする拠点と、SAP の標準テンプレートを最大限に活用することでメリットが得られる拠点を特定します。 またアジアへの展開に着手する前に、英語のスキルのレベル、変更の要望、組織の準備状況を確認しましょう。

2. データ移行の早期計画

ロールアウトのプロジェクトは、短い期間のタイムラインで、迅速に行われる傾向にあります。 そのため、プロジェクトの早い段階でデータ移行に取り組むことを推奨します。そうすることで、関連性が低く、移行する必要のない古いマスターデータのクリーンアップに役立ちます。

3. 各拠点からの信頼を得る

SAPをロールアウトする拠点への訪問を計画し、プロジェクト、実施していくステップ、およびロールアウトプロジェクト中に、拠点へ依頼することを伝えます。 現地のチームからの信頼を得ることは、プロジェクトの成功に大きく貢献します。

4. 法的な要件とビジネス要件を明確に区別

ローカルのユーザーが求めるすべての要件が法的要件とは限りません。 多くは、既存のビジネス習慣上の要件にすぎません。 プロジェクトチームは、アジアの法的要件を把握することで、ロールアウトプロジェクト全体の利益のために、より良い決定を下すことができます。

5. 十分な時間のトレーニングを費やし、現地のコンピタンスチームを構築

Multi cultural office environment in Asia

アジアへのロールアウトプロジェクトでは、各国にSAPのエキスパートから構成されるローカルチームを構築することを推奨します。 これらは、プロジェクト全体を通して深く関わっている主要ユーザであることが望ましい。このチームメンバーは、プロジェクト後に、組織のSAP サポートの第一人者として機能します。 このアプローチは、稼働後のSAP システム最大限利用するために非常に役立ちます。 主要ユーザが現地拠点の状況を理解しており、かつオンサイトで支援可能という状況を作り出すのです。そうすることで、グローバルSAP コンピテンスセンターと各国のエンドユーザー間のコミュニケーションも円滑なものになります。

ケーススタディ

Bruker Logo

“Axxis Consultingとの仕事は素晴らしいものでした。わたしたちのプロジェクトを担当したAxxis Consultingのコンサルタントは専門知識が深く、わたしたちの気持ちをよく汲み取り、時にはプロジェクトの範囲を超えてサポートしてくれました。アジアでのSAP ERP導入プロジェクトのパートナーとして彼らを強く推薦します。”

Mark Oro氏, 役員 兼 経理財務部長

当社はSAP Platinum PartnerであるアライアンスネットワークであるUnited VARsに加盟しております。したがいまして、当社は世界中の主要なソリューションプロバイダともリレーションがあります。 これにより、海外拠点へのロールアウト、ERPの最適化、および国境を越えたニアショア案件に最適なサービスとサポートが保証されます。

WATCH: Global SAP implementation with United VARs (just 3:12 minutes)

当社エキスパートとSAPロールアウトに関する要件をディスカッションしましょう。

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