SAP ECC(またはSAP R/3)からSAP S/4 HANA にアップグレードする必要はありますか?

この質問は、シンガポールであろうと、マレーシアであろうと、勿論日本であろうと、SAP ECC、R/3など既存のSAPユーザーから問われている最も一般的な質問のひとつです。
Axxis Consultingはシンガポールにおける有数のSAPパートナーの一社として、今後の方針について既存のSAPユーザーとの協議を継続してきたなかで、既存のSAPユーザーが疑問に思っていること・不安に思っていることはほとんど同じ(あるいは、少なくとも類似している)であるということに気づきました。
そこで、「Ultimate S/4 HANA アップグレードチェックシート」-S/4 HANAに関する質問をチェックしていくことで何をすべきかの指針を示してくれる弊社独自のツール-を開発することにしました。
この寄稿の最後にツールをご紹介していますが、まずはS/4に関して解説していきます。

S/4 HANA とは?

この質問に対する答えとして、以下4つのポイントをご説明します:

1.高速化されたデータベース

SAP社は、(a)既存ユーザーが競争力のある(すなわち、OracleやMS SQL)データベースに多額の費用を費やしていると判断、し、また(b)従来のデータベースは、インダストリー4.0やインターネットを経由した分析需要の高まりに対応するには遅すぎると判断。従来のデータベースの代わりにSAP社の専有データベースを提供すべきだと考えました。
そのため、SAP社はすべてのトランザクション関連データをハードディスクなどの外部記憶装置上にて処理するのではなくRAM メモリ上の領域に格納して処理するインメモリデータベースを開発しました。
これにより、データ処理が大幅に高速化され(平均DRAM アクセスはハードドライブの約100 倍の高速化)、トランザクションデータのリアルタイム分析が可能になります。

このデータベースのパラダイムシフトにより、SAP社内のERP開発チームは、データを内部に保存する方法を選択できるようになりました。ハードディスク速度はもはや制限要因ではないため、集約(Aggregation)やインデックス(Index)はもはや必要ではありません。(以前は、より高速な処理に向け、データを集約するために、いくつかの追加テーブルが必要でした。しかしながら、インメモリデータベースを使うことで、メイントランザクションテーブルに直接アクセスできるようになり、不要になった集約とインデックスを削除することで、結果的に「混乱」を大幅に減らすことができるようになります)。

2.では、そのメリットは?

高速化、スケーラビリティ(拡張性)の向上、および将来への柔軟性に加え、他に、HANA データベースを使用する利点は2つあります:

必要なハードウェアが少なく済みます。

集約する必要がないため、テーブル領域の削減できることにより、必要なハードディスク領域が少なくなります。そのため、バックアップもより簡単で高速になります。

個別にデータウェアハウス(DWH)は必要ありません。

もし、現在組織の管理にSAP のソリューションを利用していて、今後SAP HANA 上を利用するようになった場合、(BI レポート用に複数の個別のデータソースがない限り) 個別のBW インストールが不要になる可能性があります。前述の通り、HANAを使うことで、SAPに蓄積されるトランザクションデータを直接分析できるようになったためです。それにより、
a)複雑さが大幅に軽減されます(個別のデータウェアハウスを管理したり、ETL(データを抽出/加工/ロード)の問題に対処したりする必要がありません)。
b)リアルタイムのデータをベースに分析が可能となります(最新ではない可能性がある抽出、統合、変換、最終的にロードされたデータではなくなります)。

確かに、必ずしもすべての企業において最新の実際のデータに基づいて分析を実行する必要があるわけではないのかもしれません。しかしながら、最良の意思決定を行うために最新の利用可能なデータを必要とする組織である場合、これは間違いなく重要な考慮事項でとなります。

3.より改良され、使いやすいユーザーインターフェースを提供

Example of SAP S/4HANA on a desktop and laptop computer

この新しいユーザーインターフェースで、SAP社は国際的なプロダクトデザイン賞であるレッド・ドット・デザイン賞を受賞しました。 SAP Fioriのユーザーインターフェースは、約4,700社の応募があった中で、Red Dot Award:Design Concept 2015のインタラクションカテゴリ(*)にて賞を受賞しました。
更に、2016年には、組み込み分析(embedded analytics)機能が賞を受賞しました。
SAPのソリューションは複雑で使いづらい、というイメージをお持ちの方は多くいるかと思いますが、この新しいユーザーインターフェースを見るとイメージは大きく変わるのではないでしょうか。ぜひ、一度デモを通じて、SAP社が提供する新しいソリューションを体験してみてください。または、新しいFiori 2.0インターフェースの動作を紹介する動画をご覧ください。
(*)インタラクションデザインとは”ユーザーが特定の操作を行なったとき、システムがその操作に応じた反応を返すこと”(UXの使いやすさ、操作性、わかりやすさ)を意味します。

4.最終的には、経営幹部にリアルタイムのビジネスインサイトを提供することができます。

Fiori 2.0インターフェースとHANAデータベースとを組み合わせることで、最終的にCFOをはじめとした経営陣は統合ERPシステムとしてのSAP導入を決定したときに”欲しい”と考えていたものを得ることができ、組織の実行を支援します。
つまり、
・自社の財務状況-いつでも、どこでも-をリアルタイムで可視化できます
・そして、あなたの手の中で、あなたの組織のキャッシュ予測(流動性予測)をリアルタイムで確認できます
それを実現できるのは、SAPソリューションが企業全体の取引データ(すなわち、請求書発行、購入注文、仕訳伝票、現在の銀行残高)等とリアルタイムに接続されているためです。

今までのように、複雑で長いレポートを実行 –理想的には夜間、そうでなければこれらのレポートを実行すると、システムのパフォーマンスに影響を与え、ユーザーの業務遂行能力に深刻な影響を与えるため–する代わりに、タブレットでSAPソリューションにログインするだけで、ダッシュボードで統合されたリアルタイムの情報を取得できるようになります。 また、印刷されて机に置かれるレポートとは異なり、このソリューションを使えば、すべてのKPIにおいて、詳細を知りたい場合は指一本でドリルダウンすることができます。したがって、数秒以内に、例えば、グローバルキャッシュフロー予測が期待どおりではない理由は、タイの主要顧客の支払いの延期が原因であることがわかります。そして、あなたは–うまくいけば–それについてすぐに対処するという判断をすることができます。

つまり、一言で言えば、これがSAP S / 4 HANAのすべてです。超高速のインメモリデータベースと素晴らしい新しいユーザーインターフェースを組み合わせることで、いつでも、どこでも、リアルタイムのビジネス洞察が得られ、常に経営が望む方法でビジネスを実行できます。

SAP S/4 HANA にアップグレードする必要がありますか?

全ての人がアップグレードする必要はありません。 上記の「SAP S / 4 HANAとは」への回答を読んだ後、 より高速なデータベース、リアルタイムのビジネス分析、または新しいユーザーインターフェイスSAP Fioriの利点を必ずしも活用する必要がないと判断した場合は、既存のSAP ERP環境をそのまま継続できます。 SAPは、どのようなDB上のSAP ERPおよびSAP Business Suiteを暫くサポートし続けることを発表しています。

ただし、今後のSAP社による新しいイノベーションはSAP HANAに基づいて構築されます。 したがって、SAP ERPシステムがOracle、Sybase、またはMS SQLで実行されている場合、今後数年で導入される追加の新機能を利用できない可能性はあります。

ハードウェアが古く、買い替えが必要なタイミングです。何か考慮事項はありますか?

前の質問とは対照的に、この質問に対する答えは少し複雑で、「お客様の状況によって違」います。Ultimate SAP S/4 Upgrade Cheat Sheet を見ると、「新しいハードウェアの購入」ほどシンプルではないことがわかります。ハードウェアを交換する必要がある場合は、考慮すべき多くの要素があります:

  • オンプレミスを保ちたいと思っていますか、それとも、システムをクラウドに移行することを検討したいと思っていますか?
  • S/4 HANAへのアップグレードを近いうちに行う意向がありますか?
  • SAPは貴社の事業運営の戦略的要素なのか、それとも別のERPシステムを視野に入れていますか?

これらすべての質問は、ハードウェアを交換するか、S/4対応ハードウェアを入手するか、クラウドプロバイダに問い合わせるか、既存のハードウェアをもう少し維持しておくか、の判断に影響します。

Ultimate S/4 HANA Upgrade Cheat Sheet では、これらの質問に対処することにしました。そうすることで、お客様の状況に最も適した回答が何かをおそらく見つけることができます。

既存のハードウェアでS/4 HANAを導入することができますか?

残念ながら、ほとんどは、既存のHWに対してS/4HANAを導入できないケースが多くなっています。S/4 HANA 認証ハードウェアとして必要なメインメモリ(RAM) は最小でも128GB です。(認定HWの一覧はこちら)
したがって、S/4HANA 環境用に新しいハードウェアを購入する必要がある可能性が高くなります。
そのため、もしもハードウェアの入れ替えが必要となった場合には、オンプレミスとするかどうか、またはクラウドに移行するかの評価をする機会としても使用できます。

一例としてですが、弊社は現在、S/4 HANAに移行するための以下の4つのオプションをクライアントに提供しています:

  • 既存のハードウェアを、希望するハードウェアパートナの新しいハードウェアに置き換えます
    (弊社はすべての主要なハードウェアパートナーと協力しているため、S/4HANAにアップグレードする場合には、新たなハードウェアをバンドルして提供することができます)
  • ローカルデータセンター(専用プライベートクラウド)を介してクラウド形態でホストする
  • Amazon Web Services (AWS) を使用して、拡張可能な仮想プライベートクラウドでS/4 HANA をホストする
  • SAP S/4HANAのパブリッククラウドサブスクリプションベースのオプションと見なす

そのため、(もしも、前述で紹介したHANAの機能を今すぐ必要ないという場合で、)SAP ERP を数年前に購入したばかりの場合や、SAP アップグレード用に新しいハードウェアを最近購入した場合は、SAP S/4 HANA へのアップグレードを延期させることを検討することをおすすめします(既存のベンダと十分な価格でハードウェアを交換できる場合を除く)。

ご覧のように、SAP S/4 HANAにアップグレードする必要があるかどうかという質問は、YESかNOかで簡単に答えることが可能な質問ではありません。最新の機能や将来を見据えたソリューションを入手する、ということだけでなく、当初のSAPの実装または最新のアップグレードに対するROIを確保するために、個々の状況を考慮する必要があります。
その他、本稿で見落としていると思われるその他の質問、ご意見、またはポイントがございましたら、ぜひ、弊社までご連絡をお願い致します。 貴社のSAP S/4HANAへのアップグレードのご経験も大歓迎です。
弊社だけでなく、このブログの他の読者がSAP S/4HANAへのアップグレードをより適切に意思決定するため、貴社のフィードバックとインプットは非常に参考となります。

S/4HANA Upgrade Cheat Sheet infographic